そんな彼も高校生となった。
家庭は相変わらずである。
彼にも些末ながら知恵は付き、やがて母親とも口喧嘩に似たようなことぐらいはするようになった。
今でも強く覚えているやり取りがある。
「そんなに俺が憎いなら、いっそ殺せば良いだろう?」
「どうして私があんたのせいで一生を棒に振らなきゃならないの?」
彼を殺すにやぶさかでないが、ただ子殺しとあっては大きな罪を背負わねばならず、相応の罰も受ける。それを彼女は嫌ったのだ。
とことん何もない。彼女の中に自分に対する感傷はない。
そう確信して以来、彼は母親に感情をぶつけることをやめた。
時は経つ。彼も四十になろうとしていた。母親の件とは無関係に、まだ独身である。
何故か彼は可愛らしい物を好む。自分でも良い歳をしてと思うところはあるも、例えばウェブ上で用いる自己を表現するアイコンやアバターであるとか、余り人目に晒されない小物であるとか、特に自己満足的に所有する物品に関しては、子供じみた可愛らしい物を好んで用いた。
理由は自分でも分からない。
分からないが、そんな可愛らしい品々を見るに付け、幼い頃、運動会や遠足で母親が持たせてくれた可愛らしいデザインの弁当箱や、愛くるしいキャラクターがプリントされた布を使って母親がこしらえてくれた学校で使う諸々の道具を入れる巾着袋、そんな物を思い出すのだ。
そして思い出しては少し照れくさい嬉しさと、腹立たしいぐらいの憎たらしさと、ぽっかりと開いた穴のような虚しさに襲われるのであった。
(注:このお話はフィクションだと思います)
家庭は相変わらずである。
彼にも些末ながら知恵は付き、やがて母親とも口喧嘩に似たようなことぐらいはするようになった。
今でも強く覚えているやり取りがある。
「そんなに俺が憎いなら、いっそ殺せば良いだろう?」
「どうして私があんたのせいで一生を棒に振らなきゃならないの?」
彼を殺すにやぶさかでないが、ただ子殺しとあっては大きな罪を背負わねばならず、相応の罰も受ける。それを彼女は嫌ったのだ。
とことん何もない。彼女の中に自分に対する感傷はない。
そう確信して以来、彼は母親に感情をぶつけることをやめた。
時は経つ。彼も四十になろうとしていた。母親の件とは無関係に、まだ独身である。
何故か彼は可愛らしい物を好む。自分でも良い歳をしてと思うところはあるも、例えばウェブ上で用いる自己を表現するアイコンやアバターであるとか、余り人目に晒されない小物であるとか、特に自己満足的に所有する物品に関しては、子供じみた可愛らしい物を好んで用いた。
理由は自分でも分からない。
分からないが、そんな可愛らしい品々を見るに付け、幼い頃、運動会や遠足で母親が持たせてくれた可愛らしいデザインの弁当箱や、愛くるしいキャラクターがプリントされた布を使って母親がこしらえてくれた学校で使う諸々の道具を入れる巾着袋、そんな物を思い出すのだ。
そして思い出しては少し照れくさい嬉しさと、腹立たしいぐらいの憎たらしさと、ぽっかりと開いた穴のような虚しさに襲われるのであった。
(注:このお話はフィクションだと思います)