昨日は夕飯を摂るべく、中華料理屋さんへ入りました。

俺のような人工透析患者が外食をしようとすると、やはり塩分を始めリンやカリウムが気になります。

リンやカリウムに関しては幾らか透析で抜けて行くでしょうし、摂り過ぎても医療機関の方へ直ちにバレてしまうようなこともなく(俺の通っている施設の場合、血液検査は月に一度だけしかない)、その後の食生活で何となくバランスを取って行けば(摂り過ぎた翌日は減らす等)良いような気もするのですが、問題は塩分。

塩分を摂り過ぎると喉が乾いてしまい(クチの中の塩辛さを洗い流すような目的で水が飲みたくなるレベルとは全く違う。体が欲する感じ。ガマン出来るとか出来ないの問題ではない)、水分まで欲しくなってしまいます。水分を摂れば体重が増え、それは次回の透析時に大きく影響して来る。

何となくレシピ等が徹底的に管理されている外食チェーン店ですと、融通が利かない(「〜を減らして」、「〜を抜いて」と注文しても、受け入れて下さらない)ように思えた上、塩分も高そうな気がし、個人で営まれているお店を選びました。

カウンター席だけのある小さなお店。他に客はおらず、壁にベタベタと貼られている油で薄汚れた短冊形のメニューには予想通りのチャーハンが。

チャーハンならば大体の使われている具の予想が付く上、汁気もないので(特にメガ盛りでもない限り)食品自体の重量も少なく済みそうです。

まず氷の入った美味しそうなお水が出て来ました。

「あの、すみません。チャーハンを出来るだけ薄味でお願い出来ますか?」

「薄味?塩を使うなっての?」

「はい。無理なら結構です」

「出来るよ。薄味ね」

「申し訳ないです」

ちょっと怖そうな店長さんでしたから、躊躇もなくはなかったのですが、女性の看護師さんに叱られる恐ろしさに比べれば100倍マシ。(ごめんなさい)

慣れた手付きで豪快に中華鍋を振りつつ、こちらに背を向けたまま店長さんが仰います。

「お兄さん、血圧でも高いって言われたの?」

「え…?」

「いや、若いのに塩気を気にするなんてさ。健康診断で何か言われた?」

「あぁ。いや、はい。まぁ、そんな感じです」

人工透析が云々…と説明するのも面倒で、適当にお茶を濁しました。

「腎臓(注:心臓と言ったのかも)でも悪くすると大変だからねー」

「そうですね…」

『もう悪いんだけれどな…』なんて思っている内、店長さんがお皿へ器用にチャーハンを盛り付け(中華鍋のチャーハンを大きなオタマへ空けてポンとやるアレ。綺麗に丸くチャーハンがお皿に乗る)、今度は何やら小さい丼のような器を手に取ります。

「あ。ごめんなさい。チャーハンにはスープみたいな物が付きますか?」

「うん。スープと漬け物が付くよ」

「ごめんなさい。チャーハンだけで良いです。そのままの値段で結構ですから、お新香とスープを抜いて下さい」

「スープも薄味に出来るよ。お湯で薄めれば良いんだろ?」

「ありがとうございます。でも結構です」

「あー、そう」

相変わらず他に客はなく、黙々とチャーハンを頂きました。注文通りの薄味ながら、美味しかったです。

店長さんは、お酒なのか透明の液体が入ったコップを片手に、何となく俺を眺めている様子。

食べ終わり、食後の薬を水なしで飲み込んで、ポケットから財布を取り出そうとすると、

「ちょっと訊くけど、お兄さん、もしかすると透析を受けているんじゃないの?」

「え!?」 ← 驚いて大きな声を出してしまったような気がする。

「人工透析」

「何故そう思うんですか?」

「チャーハンを単品で選んだし、塩分は気にするし、スープも要らないって言うし、今は今で水も飲まずに薬を飲んだだろ?」

会話の流れで『この人は人工透析を理解して下さっている』と思いました。

「はい。昨年から人工透析を受けています」

「やっぱり」

「良く御存知ですね」

「俺の親父も透析患者なんだ」

「そうなんですか?」

「もう何十年も病院へ通っているよ。薄々勘付いてはいたけれど、お兄さんが水まで飲まないトコロを見てピンと来た。親父も息子が作ったラーメンも食わない」

怖そうな店長さんが笑顔を見せます。

「若いのに大変だ。サービスでビールの一杯でも出してやれれば良いんだが、飲めねぇもんなぁ」

「お酒は大好物だったんですがね。お気持ちだけ頂いて置きます。せっかくお水まで我慢したのに」

「無駄になっちゃうもんな」

透析を理解して下さっている方との会話は、いちいち説明する手間がないので、リズムが良く気持ち良いです。

透析を知らない方との会話ですと、まず水分が余り多く摂れないと言うことから始めなければなりませんし。(それぐらい知られていない。『色々と制限はあるにしろ、水やお茶ぐらいは飲めるだろう』と思われていることが圧倒的。かつての俺もだったが)

お会計の後、店長さんが「頑張ってな」と仰って下さいました。

透析患者自体が増えてしまうような世の中は望みませんが、人工透析への理解を持って下さる方と触れ合えることは嬉しいです。

美味しいと言うか、あっさり味の優しくも嬉しいチャーハンでした(^_^)